編集日誌

仕事の記録です。

『日誌』プロローグ

以下の原稿は2022年4月10日(日)、下北沢のBONUS TRACKで開催されたイベント「日記祭」に合わせて制作したZINE『日誌』のプロローグです。

プロローグ 二〇二一年八月三十日(月)

 八月二十九日、本屋・生活綴方(妙蓮寺)での一日店番を無事に終えた。書店で店番するという貴重な機会をいただいたのみならず、ZINEとはいえはじめての単著となる日記集『八月二十九日、』も出版していただいた。関係者の皆様に改めて感謝申し上げたい。

 たくさんのお客様にも来店いただけた(と思う)し、けっこう良い売上だった(と聞く)。ひとまずホッとしている。それにしても皆さん、平台以上に棚を隅から隅まで見ていた。買う本をじっくり選ばれていた。その姿をレジから眺められたことが嬉しかった。わたしたちがつくった本はこのように棚に並び、見られ、運がよければ選ばれていくのだ。

 そういえば閉店準備をしているとき、鈴木雅代さん(店長)の声がふと聞こえてきた。「今日は棚から選んで買ってくれたお客さんが多かったから、ガタガタになってるかも」「補充かけなきゃね」。嬉しかった。というか、当たり前だけど、そうやってまちの本屋の棚は耕されていくのだな、と実感させられた。書店員だけではない、そこに集うまちの人たちも、棚づくりの主体なのだ。

        *

 はじめて「日記集」のための日記を書き、それを自ら編集するという経験は、刺激的なものだった。そもそも、「日記に朱を入れるとはどういうことか」「日記は編集できるのか」ということを、これまで考えてこなかった。そういった面での思索にもつながった。今後の仕事にも活きてくると思う。

 正直なところ、日記を書いて公表することのモチベーションも、これまでピンときていなかった。それでも、日記だからえいやで書けてしまったことがあったし、いわゆる「原稿」を書くのと違って気楽に書き出せる瞬間もあった。なるほどこれは楽しい、と思った。このようにだらだら考えていることでさえ、いったん打ち出してしまえば、それはもう「日記原稿」として自然に溜まっていく。

 例えば日記集の一本目として収録した「東横線にいる。」は、妙蓮寺-渋谷間にスマホで書き、乗り換え、最寄りに着くまでのあいだに推敲し、帰宅前には納品していた。とてもラフに書けたと思う。なにより、スマホで打っていると、前のほうを見直すのが大変だ。すぐに疲れてしまうので、文章が長くなりすぎない。それもよかった。

 書き方にしても文体にしても、とにかく思いつきを実行しやすかったと思う。日記なんだから毎日スタイルが違うのは当たり前、そもそも気分が違うのだから、と割り切れたのも気楽だった。普段の仕事だとそうはいかない。統一統一統一……。整理整理整理……。そんなに整えるのが大事か? と思わないでもないけど、そうしたしがらみからも(一時的には)開放された。

 ただ、実際のところどうなんだろう。これは所詮、半月程度だったから楽しめただけなのかもしれない。日記集の「あとがき」にも書いたけど、公表前提だと自分の生活をどうしても編集的な視点で切り抜く必要が出てくる。どこかで嘘っぽさや過剰な脚色が入ってきそうな気もする。生活が積極的な執筆対象となったとき、それを楽しめるかどうかはまだよくわからない。でも逆に、続ければ続けるほど肩の力も抜けて、案外すべてがどうでもよくなるのかもしれない。

 日記集における「日記っぽさ」とは何か。それはいかに担保されるのか。そんなことを今回のZINEをつくるあいだ、ずっと考えていた。だから多分、けっこう、ちゃんと「日記っぽく」なったと思っている(実際その日に全部書いたし)。とはいえ、「日記」と「原稿」の違いについてはもうしばらく考えてみたいと思った。

 とにかく、普段は読むばかりなので、たまには書くのもいい。自分が書いたものが、自分に思考を迫ってきてほしい。今回のZINEが、遠くない未来にそのようなものであればいい。

『日誌』目次

プロローグ 二〇二一年八月三十日(月)

二〇二一年十二月

二〇二二年一月

エピローグ 二〇二二年二月に向けて

謝辞 二〇二二年三月六日(日)

取り扱い店(2022年7月4日現在)

『八月二十九日、』(発行:生活綴方)

tsudurikata.square.site

tsukihi.stores.jp

sunnyboybooks.net

habookstore.shop

『日誌』(自費出版

tsudurikata.square.site

『日誌』については、ビーナイス、ポルべニールブックストア、スタンダードブックストアでもお取り扱いいただいておりましたが、完売しました。ありがとうございました。再販の予定はないので、上記の書店で見かけた際にはぜひ手に取ってみてください。